156話 社運をかけて


そして、また2週間ほどもがき続けて。

いや、10年間、戦い続けてきたと言ってもいい。

ついに、その集大成を発揮するべき、日本スーパーグランプリの本大会の日がやってきた。


「おはよーっす」


「おはよ」


7月末。

晴れた、土曜日。


9時半に絹山駅に集合して、参加メンバーと応援団はそろって横浜の会場に入った。

出番の早い者はサブトラックにアップへ。

そうでない者はとりあえず飲み物を買いにいったり、観客席の場所取りに急いだり。

わりと自由な感じだ。

団体競技だったらこうもいくまい。


予選会のときも派手だったが、競技場前や場内の通路にさまざまなテナントが出ていた。

スポーツドリンクのペットボトルが、50円で売られている。

安い。

見たことないやつだけど、たくさんの人が買い求めていた。

大きな氷のプールに大量に入っていて、レースクイーンが笑顔で売っている。

写真を撮る人も多い。


なるほど、撮影OKなんだ…。

撮影…。


「鼻の下伸ばさないの」


ちらちら横目で見ていると、ミキちゃんに釘を刺された。

だってあんな美女があんな格好で、だって、ねえ…?


パンやおにぎりは、ほとんどそのへんのスーパーで買うのと同じような値段。

から揚げとか各種惣菜も、そんな感じ。

例えば大きなホットドッグが100円で、ケチャップ・マスタードかけ放題。

とにかく、全体的に値段が安い。

学祭のノリだ。


採算が取れるのが疑問だが、とにかくどの屋台も売れ行きが素晴らしい。

ホットドッグなんてスーパーでも同じ値段で買える。

でも、この青空の下でこうやって売られていると、お得感がすごいのだ。

薄利多売の見本である。

はなから儲けを出そうと思っていないのだろう。


「お、いたいた」


知香ちゃんたちは今日も公式グッズショップを開き、また長茄子を焼いていた。

朝一で来たらしい。


今回は、競技場広場の一等地で、かなりにぎわっていた。

この暑いのに焼き茄子なんて。

そう思うけど、ヘルシーだしいいにおいがするし、そそられる客が多いようだ。


「おいしそうだね」


「んでしょ」


高知県産の大きなナスを半分に切ったやつが2つ、つまり1本ぶんで100円。

普通に買ったらナスは1本100円もしないけど、安く思える。

みんな、2つ、3つと買っていく。


それに、米ナスマンアイスの売れゆきがものすごい。

大きなアイスケースだけど、もうほとんど残っていなかった。

メーカーに電話して、急いで持ってきてもらっているところらしい。


「知香ちゃんは試合出ないの?」


聞いてみると、知香ちゃんは何か踊りながらうなずいた。


「出る出る。咲希のバーターだけど」


「そっか」


ベースマンが商品を並べている。

1年生の女の子が2人、茄子を焼いたりアイスを出したり。

みんな陸上部で、これは陸上の大会なんだけどなあ。

商売に力を入れてどうするんだって、ちょっと思ったけど、出れないわけだしまあいいか。


例によって、米ナスマンの着ぐるみが店の前で音楽に合わせて踊っていた。

脱水症状で倒れないか心配だが、中の人が誰なのかは聞かないでおこう…。


「星島君、はい、何か買って!」


知香ちゃんが、踊りながら右手を僕に差し出す。


「たまには知香ちゃんにおごってもらいたいな」


「そんな無茶な」


「無茶なの?」


「ムチャ・リブレ」


いきなり笑いながらチョップをされる。

何だかよく分からないが、別に酔っているわけではないと思う。


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