154話 本戦へ


翌日は一転、夏らしい快晴だった。


お昼を食べてから、ミキちゃんと電車に乗って大学に向かう。

毎日朝早く起こされるのは大変だが、規則正しい生活にも慣れてきた。


「うー。山の上だから少しは涼しいと思ったのに」


金谷山駅で降りても、やはり暑いものは暑かった。

僕は早くも汗をかき始めていたけど、ミキちゃんは涼しげな顔。


「やっぱ、美人は汗かかないんだね」


言うと、ミキちゃんは少し眉を動かした。


「今日は涼しいじゃない」


「暑いよう」


「駄目よ、このくらいでばててちゃ」


「ばてはしないけどさ…」


ちゃんとした生活のおかげか、体調はすこぶるいい。

いつものように学生協にいって、スポーツドリンクを買うとトラックに向かった。

タータンの上はものすごく暑いが、たくさんの選手がトラックで汗を流していた。

シーズン真っ盛り。

今が一番、暑くて熱い時期だ。


部室の前でミキちゃんと別れ、更衣室でジャージに着替える。

冷房が入っていて涼しいので、陸上競技ジャーナルを読みながら休憩。

しばらく休んでいると、おべっか金子とベースマンが入ってきた。


「はよーっす」「うおっす」


「ういっす」


「星島さん、グランプリ登録しました?」


あいさつも早々に、金子君に聞かれる。


「ん?」


「ID登録」


「あ、ホームページでするんだっけ」


「そうそう」


「やってないや。忘れてた」


「たぶん、星島さん…」


言いかけて、金子君は途中でやめた。


「いいや。自分で見てください」


「何だ。気になるな」


「いやいや、ご自分で」


「うん…」


何だか、ものすごく気になる。

財布から認定証をとりだして、僕は部室をあとにした。


ミキちゃんの姿を探したけど、トラックには姿が見えなかった。

まだ部室にいるのかもしれない。


「あ。ミキちゃん、部室いる?」


ちょうど、ドアを開けてマネージャーの詩織ちゃんが出てきたので聞いてみた。


「あ、たぶん談話室だと思います」


「あっ、そう。ありがとう」


「はい、ごほうび」


ポニーテールを揺らしながら、例によって詩織ちゃんに僕にごほうびをくれた。

今日は、何かよく分からないけど、サイダーふうのシュワシュワするやつだった。


「わーい。何のごほうびだろ」


「ちゃんとお礼を言える偉い子なので!」


「言ってよかったっ…!」


小走りに階段を上って談話室の中を覗く。

真ん中の談話室で、ミキちゃんと新見が何かしていた。


ちょっと考えたけど、ノックをしてドアを開ける。

ノートパソコンを開いて、フォームのチェックか何かをしているようだった。

邪魔かなと思ったけど、新見が笑顔を見せてくれたので、僕は中に入ってドアを閉めた。


「おいっす」


「おはよっ」


最近、ミキちゃんと新見がこうやってちょこちょこ密談している姿をよく見かける。

いよいよ、新見も村上道場に入門か。


「何?」


ミキちゃんが髪をかき上げて僕を見る。


「あ。ちょっとパソコン借りようと思ったんだけど…」


「いいわよ」


「ごめんね、邪魔して」


パソコンの前に正座すると、ブラウザから日本スーパーグランプリの公式サイトへ。


チアガール大募集!とか気になる。

来場すると最高20億円ゲットのチャンス!とかもっと気になる。

ほかにもものすごく心惹かれるコンテンツが並んでいたけど、それはあとでじっくり見ることにして、大きなログインボタンをクリックする。


参加した方はログインして登録を、と書いてあったからだ。


「えーと…」


画面の指示どおり、認定証の裏に書かれた16桁の英数字をぽちぽちと入力する。

それから、メールアドレスとパスワードを入れて、名前と誕生日を入れる。


名前、年齢を公開するかしないか、いずれも公開するをクリック。

せっかくなので、星島望の名前を世界にとどろかせたい。

僕の場合、隠すようなことでもないし。


「まだやってなかったんだ」


新見が覗き込んで言った。

登録ボタンを押すと、自動的にマイページ画面に切り替わって成績が表示された。

男子100m、ベスト記録10秒22、日本歴代15位タイ。

セカンドベストは10秒24。

今シーズン日本ランキング5位。

近走の成績も載っていて、選手名を検索すれば調べることもできるようだ。


とにかく、ものすごく細かいデータベースだ。

シーズンランクや日本歴代記録をトップ100まで見ることもできる。

こりゃ、便利だ!


肝心の、日本スーパーグランプリ予選会の成績は、10秒22で全国1位となっている。


「おお」


「おーっ」


新見と声がはもった。

予選会ランキング確認ボタンを押すと、画面が変わって、予選会の順位一覧表が出る。


1位 10秒22 東京都絹山市 星島望 21歳

2位 10秒23 神奈川県横浜市 後藤俊介 23歳

3位 10秒26 愛知県名古屋市 未登録 未登録


そんな感じでずらっと並んでいる。


「やったじゃん。おめでと!」


「あんがと!」


3位のところが未登録になっている。

名古屋市といえばライテックスの本拠地があるから、本間隆一だろうか。

上位はほとんど登録済みだ。


12位 10秒49 福岡県福岡市 非公開 非公開

となっているところもある。


画面上部に、本大会に登録ボタンがある。

それを押すと、グランプリ本戦出場手続きができるようになっているようだ。

住所と電話番号を正確に入力して、この内容で本大会に登録。

メールボックスに確認メールが届いて申請するボタンを押すと、それで完了だった。


ともかく、一応これでグランプリ本戦に出場することができる。

僕はほっと息をはいた。


「よしよし。首の皮一枚つながった」


「よかったね。拝んどいたら?」


「ミキ神さま、ありがとう」


新見に促されて、手を合わせてミキちゃんを仰ぐ。


ミキちゃんが眉毛を持ち上げたところで、ばたばたと階段を上ってくる音がした。

それから、ドアのガラスのところに、ニュっと顔が見えた。

加奈だった。

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