151話 にゃんこ


「いやー、暑い暑い!」


騒ぐ山倉教授を無視して、スタンドに行く。

山倉教授はいじってほしそうだったが、無視するのも愛だ。

いや、別に愛なんかないんだけど。

変人らしいし、なるべくかかわらないほうが無難だ。


「うはよーっす」


織田君と金子君がいた。

いつもいつも同じメンバーだが、一応、少し離れたところに十文字や本間君もいます。

そのほか1、2年生もいっぱい。

あまり絡まないだけだ。


別に嫌いだとかそういうわけではなく、人数が増えればいくつかのグループになるよね。

それが人間の習性だ。


「聡志は?」


「あ、しょっぱななんでサブトラに」


織田君が答える。


「そっか。プログラムとかないのかな」


「エントリーシートの裏に書いてるっすよ」


「お。エコだね」


ミキちゃんからシートを受け取って裏を見ると、およその時間が書いてあった。

人数によってずれることもあるが、そういうときはアナウンスするらしい。


「全種目、できるのかな…」


「混合とリレーとマラソンはないんすね」


「競歩もないな」


心配していたけど、いざ競技が始まるとテンポよく進んでいった。

とにかく、早い。

選手紹介もないし、競技間のインターバルがほとんどない。


最初は、110mハードルだけど、スタートする選手の後ろに次の組の選手が待っている。

試合というよりも、体育の時間といった雰囲気だ。

それに、110mハードルは4組しかなくて、10分もしないうちに終わった。

おそらく、一般の参加者は人気種目に集中しているのだろう。

100mとか1500mとか、走り幅跳びとか。

普段、陸上をやっていない人が、ハードルに参加するとは思えないし。


「へっへっへ。もらってきた」


「お、お疲れ」


聡志が、400mを走り終えてスタンドにきた。

例の、公式記録認定証を持っている。

陸上部の連中は普段から公認されているので、今さらという気もするが、まあ記念品だ。


「お、見たい見たい」


初見のやつらが集まってくる。

記録はどんどん、公式ホームページにアップされているようだ。

スマホからもチェックそうだが、今はつながりにくいらしい。


そりゃ、全国で同時にやってるからね…。


「…あんますごいものでもないっすね」


と金子君。


「でも、おれの名前書いてるからいいじゃん」


名前と、種目と、記録が印刷されている。

こう、キャッシュカードと一緒に財布にしまえるみたいな。

あとで誰かに見せて自慢するみたいな?


そうすると、少しは話題にもなるだろう。

陸上人気のためにも貢献していることになるのかな?


「お、にゃんこ達也だ」


聡志が言う。

トラックを見ると、ちょうど男子1万mが始まるところだった。

お笑い芸人のにゃんこ達也が、にゃんこポーズをして会場を笑わせる。

箱根駅伝に出たことのあるランナーだ。

市民マラソンで2時間30分を切ったことのあるかなりの実力派である。


レースがスタートすると、二番手集団を先頭で引っ張って奮闘する。


「あははは」


スタンドがちょっとした笑いに包まれる。

一周ごとにギャグを披露したり、ボランティアの女の子に猫パンチをしてみたり。

ほかのランナーを威嚇してみたり、にゃんこ達也はサービス精神を忘れなかった。


それは、いつもの真剣勝負の試合では見られない光景だ。

でも、これはこれでありなのかなと思った。

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