140話 誰が仕入れてきたのか


バーベキューをほおばりながらおしゃべりをしていると、水沢さんがやってきた。


さすがにもう有名人だし、今年はミス絹大コンテストには出なかったらしい。

だけど、いつものようにぞろぞろと取り巻きが10人くらいいた。

その中にはもちろん、親衛隊長の藤崎小春もいた。

僕を一方的に敵視している子だ。


「お疲れさまです。何か手伝ったほういいかな」


水沢さんが軽く声をかけると、1年生の女の子がうれしそうな笑顔を見せた。


「あ、大丈夫ですーっ」


「これ、差し入れ。よかったらみんなで」


「わーっ。うれしい!」


何か袋を手渡されて、女の子たちがはしゃぐ。

差し入れをするなど、想像もしていなかった。

後輩の水沢さんに出し抜かれてちょっと恥ずかしかった。


でも、貧乏だから仕方がないのだ。

日本スーパーグランプリで上位に入って何とか副賞をゲットしたいところである。

1着なら100万円相当、5着でも5万円相当のものがもらえるらしい。

みんな目の色を変えてきそうだ。

目指せ、5着以内!


志、低いかなあ…。


「咲希ちゃん、今年も海行くよね?」


バーベキューのおかわりを食べながら、加奈が大きな声で言った。

空気の読めない子は大変だが、水沢さんは僕を見て会釈をして、それから加奈を見た。


「でも、今年はみんな大変なんじゃ?」


「それはソレ、それはソレ!」


若干、フレーズが変わってしまった。

それだとお祭りのかけ声みたいで何だか意味が分からない。


水沢さんが首をかしげると、加奈はまたクーラーボックスからジュースを取り出した。

水沢さんにぎゅっと手渡す。

キャラメルコーヒースカッシュ。

藤崎小春が、水沢さんから缶を奪って無難なスポーツドリンクと交換する。

さすがに親衛隊長だけあって、いい仕事だ。


「のぞむくんもいくから、行こうよ!」


「まあ、皆さんが行くなら」


水沢さんが、加奈の爆弾を鮮やかにかわしてくれて助かった。

頼むからファンの女の子を無駄に刺激しないでほしい。


「知香ちゃんは、行く?」


話をそらすために聞いてみると、携帯をいじりながら知香ちゃんは首を振った。


「いかなーい。グランプリのあれで忙しいし」


「あ、行くならそれ終わってから。8月頭かな」


「んじゃあば、日程決まったら教えて」


「んじゃあばって…、そんな忙しいの?」


「うん。今もちょっとメール会議中」


「ふーん」


何だか、知香ちゃんは知香ちゃんで大変らしい。

一応、先に杏子さんに都合を聞いてみよう。

そう思って、携帯を取り出してメールを打ち始めると、加奈が僕の前にきて躍り始めた。


無視していると、休憩していた真帆ちゃんと詩織ちゃんもくねくねと躍り出す。

巨娘と、ちょんまげ娘とポニーテール娘。

ひとしきり躍ったあと、最後にびしっと変なポーズを決めて三人で笑った。


「あははは」「あははは」


「また米ナスマンダンスか」


「ううん。3人だから、携帯のアンテナの形態模写!携帯だけに!」


加奈はまったく悪びれずに言った。

たぶん、杏子さんなら首を絞めていただろう。


杏子さんに確認のメールをすると、すぐに返事が返ってきた。

8月6日から8日あたりが都合がいいようだ。

だけど、とりあえずその場は、黙って携帯を閉じて終わりにする。

水沢さんの取り巻きの子には、聞かれたくないしね。


「海もいいけど、その前に試験があるんだよな…」


呟くと、加奈がパタンと耳をふさいだ。


「あー、あー、聞こえなーい」


「というか卒論も書かなきゃ」


想像するとげんなりする。

いまだに、卒論のテーマさえ決まっていないのだ。


「知香ちゃん、卒論何書くか決まった?」


「んー…、決まった」


メールを打ちながら、上の空で答える。


「陸上競技日本スーパーグランプリにおける、アサミACの広告戦略及びその効果」


「おお」


そういえば、身近にそんな題材があったのだ。


分からないことは杏子さんに聞けばいいし。

ちょこちょこ話を聞いていて多少は内幕を知っているし。

陸上の話なので興味があるし、多少は詳しい。

僕もそういうのにしようと思った。


「おれは、北方領土と山梨県の交換の実現性にする!」


聡志がびしっと変なポーズを決めてそんなことを言う。

何か、古い話題だな。

一応言っておくけど、政治的意図は全くありません。


「そうか。頑張れ」


「何だよ。いじれよ!おれをいじれ!最近星島がいじってくれなくて寂しい…っ!」


騒々しいので、1、2年生が笑いながらちらちら見ている。

というかそのセリフ、誤解されたらどうするのか。


「分かったよ。聡志はあれにしろ」


「お、お、何?」


「美人ランナー本多由佳里との交際の可能性」


「おお!素晴らしいテーマだ!」


「皆無って書くだけでいいから楽だろ」


「ギャーッ!」


例によって、騒々しかった。

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