128話 森のバター


結果だけ見ると、今年の関カレはいまいちだった。


男子はよかった。

本間君が100mで準優勝。

かなり遅れてきた天才こと星島望は3位に入ったし、十文字は200mで2位に入った。


だけど、女子がさっぱりだった。

短距離は、真帆ちゃんが100mで2着に入ったほかは、どうにもぴりっとしなかった。

最終日、水沢さんが172センチと平凡な記録ながら優勝してポイントを稼いだけど、4Kではバトンミスで失格となり、マイルリレーでも3着に破れ、まさかの総合4位に終わった。


今まで、女子はずっと総合優勝してきたのに。

オールラウンダーの千晶さんのありがたみがよく分かる結果だが、しっかりしてほしい。

新見がいないとどうのこうのとか、また浅田次郎なんかに言われたくないのだ。


ちなみに、男子の4Kは…、まあ過ぎたことはどうでもいい。


「はー。こんないいとこ住んでるんすね」


最終日が終わって、打ち上げ名目でマンションにみんなが集まる。

織田君が羨ましそうに言ったけど、ミキちゃんの部屋というか杏子さんの部屋というか。

ひょうげんちょっと微妙なところだ。


今日のメンバーは、新見と真帆ちゃんと水沢さんと宝生さん。

男子は聡志と織田君。

加奈がいないのと、宝生さんがいるのが珍しい。

加奈は法事で実家に帰って、宝生さんは真帆ちゃんと水沢さんにくっついてきたようだ。


「織田君、初めてだっけ」


「そっすよ」


「そっかそっか」


新見と水沢さんは料理のお手伝い。

聡志も最近自炊にはまっているとかで、美女に囲まれて鼻の下をでれんと伸ばしながら、ぶきっちょに野菜の皮むきなんかを手伝っている。


料理の苦手な真帆ちゃんは、ソファーに座ってジュースを飲んでいたが、突然、立ち上がって織田君と一緒に外へ出ていった。

お酒とアイスを買ってくるらしい。

それで、宝生さんと二人になってしまって、リビングが無駄に広く感じられた。


「宝生さん、何か飲む?」


「ああ。別にいい」


「そう…」


若干、重い雰囲気。

キッチンに顔を出してみたけど僕はどう考えても役立たずなので、冷蔵庫からスポーツドリンクを出して、グラスに入れて宝生さんのところに持っていった。

それで僕の仕事が全部終わってしまって、仕方なく少し距離を置いてソファーに座った。


「宝生さんは、料理しないの?」


ぎくしゃくと、聞いてみる。


「まあやってやれないことはないけど…」


「ふうん…」


会話は弾まない。

落ち着かない様子で、宝生さんは貧乏揺すりを始めた。

見た目によらずというか、意外と小心者のようだ。

そんなに、悪い子ではないのかなと思った。


「げ、ゲームでもしようか」


「いいけど…。何あんの」


「何があるかな。何もないけど」


「DR4あるじゃん」


「対戦する?」


「…まあ、いいけど」


バイクで峠道をレースする人気のゲームだ。

いかにも宝生さんらしいなあと思った。


30分くらいたって。

買い物から帰ってくるなり、真帆ちゃんはぽかんとした表情で僕たちを見つめた。

僕と宝生さんが、いつの間にかすっかり仲良くなってゲームをしていたからだ。


「うげ。また負けたーっ!」


「うひひひひ」


負けて悔しかったのか、宝生さんが僕を見てイーっと歯を見せて変な顔をしてみせる。

知らなかったけど、表情豊かな子だ。


「ずいぶん盛り上がってますね」


「真帆ちゃんもやる?」


「え、どうやんのこれ。あ、あ、ぶつかる、ピョッ」


織田君も入れてわいわい遊んでいると、キッチンから料理が運ばれてきた。


大きな皿にポテトサラダが山盛りになっていた。

これがまた最高に旨いのだ。

それと、これも得意料理のから揚げがいっぱい。

あとは僕の大好きなアサリの味噌汁。

 

そして、今日はできあがるのが早いなと思ったらメインは手巻きずし。

思わずテンションが上がってしまった。


「すげえ。超うまそう!」


ゲームのコントローラーを放り投げて、宝生さんが料理を覗き込んだ。

みんなで料理を覗き込み、わたわたと手を洗ってテーブルの前に座る。

いっぱいあるけど、何しろ体育会系、食いしん坊集団だ。

常人の倍くらいは食べてしまう。


「ごちそう、ごちそう」


新見がうれしそうに言いながらぺたんと座った。

水沢さんが僕の隣に座って、最後にミキちゃんが箸をみんなに配って全員がそろった。

一応、グラスにビールを注いで、乾杯をする。

別に何がどうというわけではないので、堅苦しいあいさつなんかは一切ない。


「かんぱーい」


「いただきまーす」


「もぐもぐもご」


いきなり、宝生さんはガブリとから揚げをほおばった。

熱かったのかハフハフハフハフして、ごくんと飲み込む。

小動物みたいだ。


「うまーっ!」


罪のない笑顔。

まるで子どもというか、ちょっと杏子さんに似ているかもしれない。


「ほら、落ちついて食べて」


「もぐもぐもご」


真帆ちゃんに諭されて、何か食べながらコクコクとうなずく。

その横で新見が笑顔のままリスみたいにほおばっていて、何だかちょっとおかしかった。


手巻きずしなので、自分の好きな具を適当に入れて巻くのだが、これがなぜか楽しい。

アボガドを入れて巻くとうまいのだ。

森の…、森の何だっけ、森の賢人?とか呼ばれていて、栄養も豊富でいい。

手巻きずしが嫌いな人間は、日本には2、3人しかいないと思う。

多分。


話題は当然、関カレの結果が中心だったけど、走り高跳びの話題になるとテーブルの下でいきなり水沢さんに腕をつねられた。

珍しく、拗ねたような表情をしている。


「充電してもらおうと思ってたのに、いないから」


「え。あ、ウン…」


ミキちゃんがじっと見ている。

ひそひそ話だったので聞こえていなかったと思うけど、逆にそれが不審だったようだ。

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