113話 だけのノリ


ナニワのあきんど知香ちゃんは、秋田出身のハイジャンパー。

新見と仲良しで、いつもくっついて歩いている。

一応、絹山のムードメーカーだ。


「いちどう、おまちどう!」


韻を踏んで、ミキちゃんに買い物袋を渡す。

新見はニコニコ。

食いしん坊、万歳。


今日のご飯は、みんな大好きすき焼きだった。

すき焼きが嫌いな日本人は、いない。(星島望調べ)


さらに、野菜がたっぷり入った春雨サラダ。

それと、ジャガイモの細切りをコンビーフと炒めたやつ。

これがものすごく旨いのだ。


「何これ。超旨い!」


ビールを飲みながら、もぐもぐとジャガイモを食べ続ける知香ちゃん。


「ビールもうま!最高!」


いや、このジャガイモのやつとビールは、本当に最高に合うのだ。

ジャガイモってビールとの相性いいよね!


「まーじーでー。星島君っていっつもこんなの食べてんの?」


知香ちゃんがポコポコ攻撃してくる。

酔ってるのかな。

まあ酔ってなくてもいつも叩いてくるけど。


「うん。いっつも食べてんの」


「なぐりてー!」


「もう殴ってるじゃん!」


「殴ってないじゃん。これは叩いてるだけ。殴るっていうのは…!」


「いや、いいから!」


知香ちゃんがグーで顔面を狙ってきたので慌てて阻止。

まさか本気で殴らないだろうけど。

多分…。


デザートは、杏子さんが買ってきた、どこぞの有名店のでっかいザッハトルテ。

これがまた美味しくて、みんな満足したところで、本題に入った。


いつか知香ちゃんが言ったように。

何かを得ようと思ったら、何か対価を払うのが当たり前だ。

杏子さんが事情を説明して、企画書を突き付けると、知香ちゃんは困った顔をした。


「スポンサーを付けるとかタイアップしてもらうとかさ」


「う」


「何でもいいからとにかくお金集める方法考えて」


「ううう。そんな難しいこと言われても」


変なポーズをして、タコみたいな唇をする知香ちゃん。


「あたしは別に、専門家でも何でもないし」


「ふーん。じゃあただ食いか…」


「ぐ」


ぐいっと企画書を差し出されて。

不承不承、知香ちゃんは受け取って目を通したけど、やがてパタンとソファーに倒れた。


「こんなん見せられても、さっぱり分かりませえん」


それはまあ、そうだろう。


「せいぜいあたしは学祭の屋台を切り盛りするぐらいですぅ…」


「役に立たないなあ」


「うー」


知香ちゃんの手から、ばさりと床に落ちた企画書をミキちゃんが拾い上げる。

まじめな顔で、ぱらぱらと目を通す。

しかし、自分に集まる視線に気が付いて不思議顔で瞬きをした。

それからまた書類に視線を落としたけど、やがて、期待されていることに気付いたらしい。

慌てて書類をまとめて杏子さんに手渡した。


「何か思い付いた?」


「いえ、別に」


「だよねえ」


「でも、気になった点はありましたけど…」


ミキちゃんの言葉に、杏子さんががばっと身体を起こした。


「それだ!何?言ってみて?」


「日本陸連は、賞金レースは認めないと思います」


問題解決どころか、新たな問題が発覚して、杏子さんはカクンと肩を落とした。

期待していたぶん、落胆は激しかったらしい。

バタンとソファーに倒れ込んで、そこはもうさながら死屍累々の状態だった。


ソファーに倒れ込む2人の傍らで、もぐもぐと、新見がザッハトルテを食べている。

我関せず。

食いしん坊は終始、笑顔だった。


変な構図だなあと思っていると、知香ちゃんが右手を上げてぶらぶらとさせた。


「それは、クイズにしちゃえばだいじょうび」


「クイズぅ?」


杏子さんが変な声を出して、知香ちゃんはさらに右手をぶらぶらとさせた。


「早押しクイズ。早くゴールした順番に、クイズに答えてもらって、正解したら賞金を出すクイズ大会。決して断じて賞金レースじゃございませーん」


そんな屁理屈がと思ったけど、杏子さんががばっと身体を起こした。


「そうだよ。クイズ大会だよ」


「ただのテレビの企画だって言い張ればOK」


「それだ!」


さっそく企画書にメモする杏子さん。

本当にそれでいいのだろうか。

まあ、酔ってるときのノリです。


「あと、いくらなんでも日程がきついから、2日に分けてやったほうがいいと思いまーす」


「やっぱりきついよね」


「一発決勝でも、1日で全部は無理でしょ?」


「はう。手が回らなくてまだチェックしてないや…」


杏子さんはごそごそとかばんから書類を取り出して、じっと視線を落とした。

じっと見て、しばらく見て、ひたすらじいっと見て、それでかくんと肩と落とした。


「ひどい…」


「え、どうしました?」


「タイムスケジュールがめちゃくちゃ。女子1500mの5分後に200mスタートになってるし、9時スタートだし、終わるの21時だし…」


レース感覚が短すぎる。

女子1500mの5分後って、下手したらまだ選手走ってる。


しかも、12時間にわたってぎゅうぎゅうに詰め込まれている。

12時間も試合を見るなんて、よほどのファンでない限りできるわけもない。

途中で疲れちゃうよ、選手も関係者も…。


「あーもうまたやり直し」


杏子さんがばたんと倒れた。


「いいよ。スケジュールもあたしが組み直すよ…」


「でも、2日間なら単純に入場料収入倍になりますよ。チケット1500円で2万人計算になってるけど、倍なら6000万」


知香ちゃんが試算すると、杏子さんは再度、身体を起こした。


「おお!賞金ぶんは何とかペイできるかもじゃん!」


「イエス!」


「あとは宣伝だね」


「そこは私の出番です。企業広告論のゼミですから!」


「おおーっ」


杏子さんに拍手されて、立ち上がって得意げに腰を振る知香ちゃん。

まあ、酔ってるだけです。

でも、よく分からないけど、楽しそうだった。

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