108話 お引越し


クリスマスは、ほとんど何もしなかった。


お互い、お金が余ってるわけじゃないし。

プレゼントは受け取らないと宣言されていたし。

パブロのチョコケーキを買ってきて、2人で食べただけ。

杏子さんも忙しいらしく、(安い)誕生日プレゼントは贈ったけど、何もしなかった。


それで、年末年始にちょっとだけ帰省する。

でも、すぐに戻ってきてミキちゃんの引っ越しを手伝った。

杏子さんのマンションに引っ越すのだ。


「何だ。荷物全然ないじゃん」


当日、聡志がマイカーで応援に来てくれたけど、確かにミキちゃんの荷物は少なかった。

大きな荷物は、冷蔵庫、テレビ、電子レンジぐらい。

ただ、杏子さんのマンションにはもっと立派なやつがある。

卒業して引越しするまで倉庫の肥やしになりそうだ。


こまごまとした私物のうち、要らないものは売るか捨てるか実家に送ったそうだ。

聡志の車だとそんなにいっぺんには積めないけど、2往復もすれば大丈夫だろう。


「んで、杏子さんは?」


聡志に聞かれて、僕は肩をすくめた。


「マンションで待ってる」


「手伝ってくれないのか」


「めんどくさーいって言ってた」


「さよか…」


ソファーに寝そべってごろごろしていた。

将来、絶対太ると思う。


一気に車に荷物を積み込んで、杏子さんのマンションまで運ぶ。

エレベーターに荷物を載せて、ピストン輸送で部屋に運び込ぶ。

大変なのは冷蔵庫くらいで、そんなに時間はかからなかった。

戻って、残りの荷物を積み込んでおしまい。

事前に掃除は終わっていて、荷物を運ぶだけの作業だったので楽だった。

さすがはミキちゃんと言ったところ。


「はうーん…」


手伝う気は完全にゼロなようで、杏子さんはずっとソファーでごろごろしていた。

寝すぎたのか、うーんと背伸びをしている。

もちろん、別に手伝う義務はないのだが、何だかもう、何だかなあ…。


「あるもの何でも使っていいからね」


「ありがとうございます」


「服とか着てもいいし…、あ、エッチな下着もあるよ」


「いいです」


「見る?すっごいの」


いいって言ってるのに、杏子さんは立ち上がってそそくさと寝室に入っていった。

一切手伝わないくせに、こういうときだけはやたらと機敏に動くのだ。


すぐに、スタタタタっと戻ってきて、パッケージに入った下着を差し出す。

黒い下着で、写真では金髪美女が下着を装着している。

肝心の部分は、やたらと面積が狭い。

しかも透けていて、何だかものすごくチープだった。


でもセットで入っている網タイツはいいと思う…!


「ほら。すごいでしょ。着てみそ?」


「いいです」


「星島、こういうの好きだからさ」


杏子さんがでたらめを言って、ミキちゃんにじろりと見られる。

思わず目が泳いでしまった。


とにかく、杏子さんはちゃちゃを入れるだけで、本当にまったく手伝ってくれなかった。

だけど、男2人であらかた荷物を運び終える。

量が少なかったので、そんなに時間はかからなかった。


「よし。終わりかな」


落ち着くと、聡志は早くも帰り支度を始めた。

今日もバイトがあるらしい。

いったん車まで戻り、忘れ物がないのを確認するとバックのドアを閉める。

 

すると、ミキちゃんがちょっと笑顔を見せた。


「橋本君、ありがとうね」


「うん。また何かあったら言って」


「今度、ピロシキつくってあげるから」


ミキちゃんが冗談を言うとは思っていなかったらしい。

一瞬、聡志はきょとんとして、それからうれしそうに笑って帰っていった。

何だか僕までうれしくなって、思わずほほ笑んでしまった。

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