107話 甲斐性なし?


練習を終えて、ミキちゃんのアパートへ。


最近は、ほぼ毎日、ミキちゃんに夕食をつくってもらっている。

付き合いはじめて2カ月だけど、うまくいっていると思う。

よく怒られてるけど。

ま、本気では怒られたことはないけど。


そんなこと言って油断してると、雷落ちるかも…?


「食べる?」


ご飯の後、緑茶を飲んでいると、ミキちゃんがピーナッツせんべいを出してくれた。

これが、少し甘くてピーナッツが入っているやつで、最高に美味しいのだ。

ぱりぱりのせんべいよりはしっとりさくさくで、クッキーに近くてとにかく美味しい。

ピーナッツが入っているのがミソなのだ。


高柳さんの頭と一緒だ。

そういや、高柳さんどうしてるんだろう。

練習にも出てきてないし、さっぱり姿を見ないけど。


「クリスマスは、また何かするのかしら」


お茶を飲みながらミキちゃんはつぶやいた。


去年は、杏子さんの誕生日会兼クリスマスパーティーをやった。

今年はいったいどうなるのか。

杏子さん、忙しそうだしな…。


「どうだろ。何も連絡ないけど」


杏子さんといえば、アサミACに入るのかどうか、ミキちゃんは返事をしたのだろうか。


「アサミACに入ろうと思うんだけど、どう思う?」


僕の心を見透かしたかのように、ミキちゃんは言った。

食べかけのせんべいをお茶で流し込むと、僕はミキちゃんの前に座り直した。

こういう話は、一度、きちんとしておくべきだと思った。


もちろん、言うまでもないことだけど、ミキちゃんにはミキちゃんの人生がある。

僕にも僕の人生がある。

今は偶然、こうやって寄り添っているが、できれば卒業しても関わっていきたい。

そう思っていたからだ。


「おれも入るから、一緒に入れたらいいな」


「そう」


少し、ミキちゃんはほっとしたような表情だった。


「じゃあ、そうしようかしら」


「うん」


「それと、年明けに引っ越すことになったんだけど」


「え。どこに?」


「浅海さんの部屋」


「ほや」


誰も住まないのはもったいないということで、引っ越すことになったらしい。


杏子さんの荷物はそのままなので、引っ越しというよりは移住という感じだ。

ミキちゃんは光熱費と管理費1万円のみ負担。

杏子さんも助かるし、お互いの利害が一致したわけだ。


「そか。聡志に手伝わせよう」


「助かる。お金ためておきたいから」


「ふうん。何か使う予定あるの?」


「世界陸上、応援に行くでしょ」


ミキちゃんは当然といわんばかりの表情を見せた。


「え、一人で?」


「一人でもいいけど。星島君の応援に」


「あや…」


「まあ来年が駄目でも再来年があるし」


「そっか。出られるように頑張らないと」


来年の世界陸上は、オーストラリアのブリスベンだ。

そして再来年、オリンピックがパリで行われる。

ともに、アスリートにとっては夢の舞台である。


特にオリンピックは4年に一度しかなく、パリを逃すと次は27歳のときになる。

下手をすると引退しているかもしれない。

オリンピックへの挑戦は、せいぜい一生のうち1回か2回なのだ。

3回も4回も出ている人はそれだけですごいと思う。

それは無理だろうけど、どうにか頑張って、一度くらいは出場したい。


「そのためにも、無駄遣いは極力減らそうと思って」


「うん。そうだね」


「だから、お金を使うデートも禁止。クリスマスもなし」


そんなの当たり前、みたいな表情でミキちゃんは言った。


「えーっ。そうなの…?」


「社会人になるまで我慢しないと。星島君だってお金ないでしょ」


「ないです」


「そうでしょ」


 お金はない。

 社会人になっても、お金持ちになるとは思えない。

 

 なんか、ミキちゃんに申し訳ない気がした。

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