104話 賞金グランプリ


その後、例によってミキちゃんにご飯をつくってもらってみんなで食べる。


新見は、今日は満面の笑顔。

ミキちゃんのつくったご飯にありつけた。

それもあるけど、順調にいけば、卒業後もミキちゃんと一緒でご飯が食べ放題なのだ。

食いしん坊万歳。


「日本でも賞金グランプリをやりたいの!」


食後、ソファーで優雅にブランデーを飲みながら、杏子さんは上機嫌に語った。


「4月から毎月1回、10月くらいまで、ぱーっと賞金出してさ」


「賞金!」


「1着は100万、2着50万、3着25万ぐらい?」


「けっこうもらえる…!」


「4着10万、5着5万ぐらいかね。全部でいくら?」


指差された千晶さんが、慌てて携帯の電卓で計算する。


「1大会で総額7千万ぐらい」


「ふーん。そんなもんか」


観客動員が1万人で、チケットが1枚千円なら大会運営費ぐらいはペイできそう。

問題はやはり、賞金と宣伝費だ。


「うーん。放映権料とかもらえればねえ」


「無理そうですね」


プロ野球でさえ、視聴率が低迷してスポンサーがつかなくなっているという。

陸上の大会をやるから放送権買ってくださいといっても、正直、厳しそうだ。

駅伝やマラソンはわりと放送されているが、通常の競技会はテレビに縁がない。


「ま、別に放送するのが目的じゃないからいいけど」


ブランデーを千晶さんにつくってもらいながら、杏子さんはもぐもぐとチーズを食べた。

黙って見ていると、半分残ったチーズを僕の口に押し込んでくる。

チーズはすごく美味しかったけど、ミキちゃんの視線がちょっと痛かった。


「とりあえず、一回やってみないと分かんないね」


「そうですね」


「アイデアはいっぱいあるんだよ。あとはノウハウさえあれば、何とかなると思うんだよね。陸連のバカどもより、よっぽどうまくやれると思うよ」


「わー」


世間知らずの小娘の言うことだから、流してください。


「そんで将来は、革命を起こして陸連を乗っ取って、あたしが陸上界を担う!」


「そりゃまた壮大なスケールで…」


「本当、今のままじゃ、どうにかしないと駄目だよ。だって今、何もしてないでしょ?普通だったら何かしようと努力するよ。でも何もしてないじゃん。組織としては完全に終わってるんだよ。理事とか評議委員とか政治家連中ばっかだしさ」


「まあ、財団法人ですからね。天下りとかいっぱいいそうだし…」


「お。さすが経済学部、詳しいね!」


モグモグとチーズを食べ、半分を僕の口に押し込むと杏子さんはブランデーを飲んだ。 


何遍も押し込まれてから、僕はやっと気付いた。

こう、チーズの端の堅い部分を、僕で処理していたらしい。

本当、この人はもう…。


「こっち座る?」


たぶん、気を利かせてくれたのだろう。

ミキちゃんの隣に座っていた亜由美さんが言ってくれたけど、「別にいいです」とミキちゃんに拒絶されて、僕は浮かしかけていた腰を下ろした。

何やら大変なことになりそうな予感…。


「モっモちゅわぁんっ…!」


じゅうたんの上では、水沢さんが、モモちゃんとじゅうたんの上でごろごろしている。

なんか、ほうっておいたら延々遊んでいそう。

長い脚をぱたばたさせて、杏子さんみたいだ。


モモちゃんもまた、飽きずに水沢さんと遊んでいる。

女の子同士、仲がいいことで…。


「星島、写真撮って写真」


美女と美猫を見ていると、杏子さんにデジカメを手渡された。

使い方がよく分からなかったけど、半押しでピントを合わせて押すだけの簡単なやつだ。

僕もデジカメ買おうかなあと思いながら、杏子さんたちのほうに向ける。

 

「じゃあいきますよ。千晶さんも入って。はい、チーズ」


パシャリ。

亜由美さんと千晶さん、新見と杏子さん。

なかなか豪華な4ショットだ。


「ちがーう!」


だけど、言われたとおり写真を撮ったはずなのに、杏子さんはぺしんと僕の頭を叩いた。


「あう?」


「あたしじゃなくて、咲希の写真!」


だったら、笑顔でピースサインとかして写らなきゃいいのに。


「プライベートショットとかいって、写真集で使うから」


「なるほどね」


写真集なのに、僕なんかが撮ったやつでいいのだろうか。

そう思いながら、水沢さんにカメラを向ける。


水沢さんは、可愛いモモちゃんとちゅっちゅとキスしていた。

それをパチパチ撮っていくと、カメラ越しに目が合った。

いつもみたく二枚目ではなく、でれんとした笑顔。

テンションが上がっているのか、キス顔をカメラに向けてくれる。


(おうっ…!)


これはいい写真が撮れた。

 

自分でチェックしてみたが、なかなかの出来栄えだ。

藤崎小春あたりに高く売れそうな…。


「へえ、星島君、うまいじゃん」


隣に来て、亜由美さんが覗き込んでくる。

 

やたらと顔が近い。

少し酔っていて、ほっぺたがちょっと赤かった。

亜由美さんもかなりの美人なので、ちょっと困ります。


「ちょっとあゆ、近すぎ」


自分のことは完璧に棚に置いて、後ろから杏子さんが指摘した。

 

「あんたさ、最近欲求不満なんじゃない?若い男と見るやベタベタと」


「杏子さんにだけは言われたくなーい」


亜由美さんが笑いながら返すと、杏子さんはミキちゃんみたいに眉を持ち上げた。


「はーん?もういっぺん言ってみろ!」


「杏子さんにだけは言われたくなーい」


「言ったな!もういっぺん言ってみろ!」


「杏子さんにだけは言われたくなーい」


「何だと。もういっぺん言ってみろ!」


「あーもうしつこいっ!」


「あゆーっ、抱いてっ!」


「どすこーいっ!」


肉親との20年ぶりの再会みたいに抱きしめあう。

何というか、まったくノリが理解できないけど、一応、激写しておいた。

いつ使われるかは、知らない。

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