060話 触れてはいけないこと


関東インカレの2日目、千晶さんは見事に女子100mで優勝した。


千晶さんは200mでも優勝し、4K、マイルでもメンバーとして活躍して4冠達成。

もう、文句なしにMVP級の活躍だ。

陸上競技ジャーナルの表紙、間違いなし。

短距離全般をこなせるオールラウンダーは、チームに1人いるとものすごく心強い。


ちなみに、真帆ちゃんも決勝まで勝ち進んで4位だった。

まだ2年生だけど、4Kでも2走でいい走りをしたし。

絹山大学の代表として十分活躍したと言えるだろう。


翌週の3、4日目を終えて、結果、絹山大学は5年連続で女子総合優勝。

名門の名前に恥じぬ結果となった。


男子は…、まあ男子はいいじゃないですか。


僕の今後の予定だが、標準記録を突破できなかったので日本選手権の出場は不可能だ。

もっとも、今年の日本選手権は名古屋開催なので、参加申し込みはしなかったかも。

交通費も宿泊費も自己負担だからだ。

貧乏学生には負担が大きいです…。


「ということで、個人選手権に出ようかなと」


翌日の月曜日は、雨。

珍しく授業に出て、お昼に学生協に行ったらミキちゃんを見つけたので、相談してみた。

練習スケジュールのこともあるので、きちんとコミュニケーションをとっておきたい。

ふられたんだけど。

ふられたことは忘れて…。


「いいんじゃない」


そっけないミキちゃん。いつも通りだ…。


「そのあとはインカレを目指します」


「とりあえず2千円ね」


「え、あ、コーチ料?」


「参加費よ」


個人選手権は、関カレやインカレと違って、各大学1種目何人と決まっていない。

参加費は徴収されるが、標準記録さえ突破していれば何人でも参加できるのだ。

 

日帰りで参加できるのも、貧乏学生にはありがたい。


「練習減らしてアルバイトするのは本末転倒だしなあ」


「その辺はうまくやって頂戴」


「うん」


最近、ちょっとずつ関係が元に戻っている感じがする。

とりあえず底は抜けた感じだ。


そういえば、久しくミキちゃんの手料理も食べていない。

杏子さんが卒業したせいで、誕生日会もやらなくなってしまったのだ。


「今日は雨だから、筋トレメインだよね」


思い切って、聞いてみる。


「少し早めに切り上げて、みんなでご飯食べに行かない?」


「バイトあるから。また今度」


「あ、そう。うん」


また今度って言ってくれた。

それだけで喜んでしまうのは、男としてはどうなのだろう。

でも、前よりはマシかなあと思った。


お昼を食べ終えて学生協を出ると、雨は小降りになっていた。

これなら練習できるかもしれない。

そんなことを思いながら、ミキちゃんと一緒にトラックのほうに歩いていく。

携帯で天気予報を見てみたけど、午後からは曇りのマークが多くなっていた。


「おはよーっす」


「おいーっす」


まだぱらぱらと降っているので、トラックには誰もいなかった。

部室の入口のところで、おしゃべりをしながら天候の回復を待つ部員がたくさんいる。


僕もとりあえず着替えたけど、待つ間、お昼寝しようと思って二階の談話室に向かった。

奥の談話室には誰もいなかったので、そこに入ってごろんと横になった。


そのまま、1時間ほど、うとうとする。


やがて目を覚まして、僕は大きく欠伸をした。

しばらくごろごろしていると、コンコンとドアをノックして知香ちゃんが顔を出した。

珍しく、ミキちゃんと一緒だった。


「いつまで寝てるのさ!」


びしっと変なポーズをする知香ちゃん。

いまいちそのノリがよく分からない。


「ん…、雨やんだ?」


「オールモストほとんどやんだ」


「そか。じゃあやるか」


「今年の学祭どうするの?まだオールモスト何も決めてないよね」


そう言えばもうそんな季節だ。

去年は短距離陣を中心にたこ焼きを焼いたんだっけ。

長距離の亜由美さんがめっちゃ上手だったのを覚えてる。


「今年は何やる?早いうちにオールモスト決めとかないと」


「うーん…」


僕自身、あまり先頭を切って何かをしようというタイプではない。

こういうことは、お祭り男やお祭りガールに任せるに限る。

知香ちゃんとか、聡志とか。

加奈とか好きそう。


「十文字は何か言ってなかった?」


「面倒だからオールモスト任せるってさ」


「何だよ。キャプテンのくせに…」


「空気キャプテンだからねえ」


ただでさえ空気なのに、高柳さんがでしゃばるのがいけないのだ。


「何かもう、顔がわき役なんだよな」


「そそ。星島君もオールモストそうだけど」


「くっ…」


「そんなこといいから、学祭!」


「あ、うん。何だっけ?」


「何をやるか、アイデア出して」


「いきなり言われてもなあ」


「オールモストわき役の上にアイデアも出せないの?」


どうでもいいけど、なんなの、その口癖は。


「うーん。ミキちゃん何かつくったら?」


言ってみると、黙って聞いていたミキちゃんが眉毛を持ち上げた。


「何を?」


「えと、からあげとか?絶対人気出ると思うけど」


「たこ焼きでいいじゃない」


「たこ焼きでもいいんだけど…、あ、今年はミスコン出ないの?」


何の気なしに聞いたら、ものすごい勢いで睨まれた。

どうやら、地雷を踏んだらしい…。

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