026話 日本選手権ハイライト


6月22日、木曜日。

いよいよ、日本選手権が始まった。


初日は、スプリント種目では男女の200m予選があった。

これには高柳さんと柏木和文さん、それから新見も千晶さんも参加。

それぞれが予選を突破した。

スプリントチームとしては順調な滑り出しだと言えよう。


初日の最終種目には女子1万mの決勝があり、鏑木亜由美さんが登場。

回し蹴りとたこ焼きを焼くのが得意な、長距離陣で唯一の実力者だ。

後半、ちょっとばてたけど、B標準を突破して堂々の3位。

何とか、世界陸上の代表選考ラインに滑り込んだ。


「あゆ、やったじゃん!」


サブトラックにて、トラックから引き上げてきた亜由美さんをみんなで出迎える。

杏子さんとハイタッチをして、亜由美さんは微妙な笑顔をみせた。


「A標準で優勝とはいかなかったけど」


「前から聞きたかったんだけどさ、あゆってなんでうちの大学入ったの?」


「え?」


「長距離やるならうちじゃないっしょ」


「あ、いや、滑りどめここしか受けてなかったんで」


一同、大爆笑。

冗談ではなくて本当にそうらしい。


2日目は、男女200mの決勝。

男子200mは、残念ながら、柏木さんが4位、高柳さんが7位といまいちだった。

だけど、女子200mでは新見沙耶が完勝。

僅差、山本幸恵との争いに勝った千晶さんが堂々の3位、表彰台。

杏子さんも大喜びで、もちろん本人もうれしそうな表情だった。


さらに、ムードメーカーの杏子さんが女子400mに登場し、トップタイムで予選を通過。

一気にチーム全体の雰囲気がよくなって男女の100mに突入した。


女子100mは、チャンピオンの新見沙耶が後半軽く流して11秒45の好発進。

もう、卑怯なほど速すぎる。

 

男子は、柏木さんは1位で通過。高柳さんと本間秀二は無難に2位で通過した。


そして、奇跡が起こった。

最終組に入った僕は、まあまあ、無難にまとめて10秒58で4位。

プラスで拾われて準決勝に進出できてしまったのだ。


どうですか、ほかのメンバーに比べてこの小物感。


「とりあえずはおめでとう」


一人、ニコニコとサブトラックに戻ってくると、ミキちゃんに声をかけられた。

 

どこで入手したのか、ミキちゃんはコーチのIDカードを首からかけている。

稲森監督が偉い人に話を付けてくれたのかな?


「やった。やってやりました」


「ついてたわね」


「うん。けど、運も実力のうちっていうし」


「ふうん。まあいいけど」


「決勝残ったら焼き肉奢って」


「嫌」


端的に、しかもパーフェクトに拒絶される。

さすがミキちゃん、ノーと言える日本人だ。


「じゃあ、8位入賞したら奢って」


「同じじゃない」


ミキちゃんはくすりと笑った。

もちろん、予選を突破したのもうれしかったけど、ミキちゃんが笑ってくれたほうがうれしかった。


「3位以内に入ったら、いいわよ」


「あ…、うん」


僕は何だか上の空で頷きながら、何となく山倉教授のことを思い出した。

本人に無断でミスコンに出場申し込みをして、ミキちゃんに殴られた教授だ。


いや、特に理由はない。

ミキちゃんの笑顔を見て、何となく思い出しただけだ。

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